傍から見た 囲炉裏端の風景 (お侍 拍手お礼の十三)
         *囲炉裏端シリーズ…?
 



例えば、カンベエ殿があの白い装束をはためかせ、
見回り先から詰め所へ戻って来るなりクシャミをしたとする。
すると…まま、辺りに人の目が有るか無きかを簡単に確かめてのことだろが、
すかさずのように嫋やかな手が伸びて来て、

  「いけませんねぇ、風邪ですか?」

さりげなく訊きながら そぉと頭を捕まえて、
おでことおでこ、こつんこと合わせ、熱を診るお人がいて。
「いや、先程 埃っぽい風に撒かれたからだ。」
それは味のあるあのお声で、大事はないと苦笑をするカンベエ殿とは逆に、

  「…。」

そんなやりとりへ大いに大事や異議がありそうな、
ちょいと不服そうなお顔になる…らしきお人がいたりして。
もっと過激な焼きもちででもない限り、
さしてオーラが立つ訳でもなく。
無論のこと、前髪で目許の表情を隠しておいでなその上、
きりりと引き絞られた口元といい、寡黙なお口までするんと下りる頬といい、
そのお顔にも感情のほどはさっぱり出ないお人なので。
私やゴロさん辺りでは、なかなか平生との別がつけにくいのですが。

  「おやおや、どしましたか?」

こちらへもやっぱり、一瞥しただけで察しがつく誰かさん。
熱を測るためじゃあなくて。
間違いなく…ご機嫌が傾
(かし)いだことへと苦笑をし、
やっぱり同じように おでこの“こつんこ”をして差し上げて、

  「…。/////////
  「キュウゾウ殿も気をつけて下さいよ?」

お外での仮眠も大概にしておかないと。
あれほどの太刀筋や体術の邪魔にならないんだもの、
そんなに分厚い上着じゃあないんでしょう?
風邪を引かないまでも、
むやみに体を冷やすのって末梢の血管や神経によくないんですからね?なんて。
つけつけとした言いようではなく、ぼしぼしぼしと、
囁くように話しかけておあげになるだけで、

  「…。
(頷)

剣呑だったご機嫌をあっさりと掬い上げてしまわれる。
シチさんはまこと、人の和を大事になさると、
ゴロさんはただただ感心しておいでだし、
私も、あれを意識しないでさらりとこなしてしまわれるのへは、
大したものだと感嘆してやまないです。

  ――― そう、シチさんには作為がない。

あったとしてもすぐに底が割れるような他愛のないことばかりで…と言ったら、
首を傾げたゴロさんから
『それはヘイさんが聡いから見抜けるだけのことだろう』
なんて言われてしまいましたが…。//////

 ……… で、でもやはり。
(←あvv)

ことが カンベエ殿への気配りとキュウゾウ殿への構いつけに限っては、
ご本人にもさしたる意図のないままに、
眸が行き届き、手が出ているという感があり。
殊に、

 “キュウゾウ殿は、焼き餅を焼く必要はないと思うんですがねぇ。”

カンベエ殿とは長年のお付き合いあってのツーカーなのだから、
おいそれと太刀打ち出来るものではないというもの。
それにしたって少なからぬ敬愛あっての把握であろうけど、
コトが起きた時にどんな考え方をなさるか、どんな行動を取られるか、
そのそれぞれへ的確で最善の対応を繰り出せる身であること、
何をおいてもそれを完遂出来ることをのみ、
一途に目指しておいでだったシチさんなんだから、
クシャミはあまりに判りやすいプロットだったですが、
それ以外の些細なところでのフォローにしても、
こなせて当然、さすが“古女房”の面目躍如というところ。

一方で、

 『おやおや、どしましたか?』
  (註;ヘソを曲げてなさるみたいだが どうしましたか?)

まだまだ付き合いだしたばかりだってのに、
キュウゾウ殿へは、そんな風にすっかりと見抜いた上で、
ほら、暖かいでしょう? 拗ねてないでこっちをお向きなさいと、
くるみ込むよに宥めておいで。
しかもそこには作為がない。
こうすれば角が立たないとか空気が和むなんてな、
場を収める術はそれなりご存知なようだが、
最悪“このお人はアタシの言いなりなんだから”なんてな、下心みたいな思惑は、
まるで持ってらっしゃらない。
人と人とのバランスを見抜くのはお上手なのに、
ご自分への誰かからの思い入れ、気づくのが苦手でいらっしゃる。

 “そうなんですよね。そこがシチさんのいけないところ。”

ご自分を過小評価し過ぎなんでしょうかねぇ。
自信がない訳じゃあない、ちゃんと自負も矜持も持っておられる。
だってのに、
尊大とか鷹揚なんてのに縁を結ばず、あくまでも物腰が柔らかで。
腰が低いってんじゃないんですよね、
そう…緩急が利くというか融通を知ってるというか。
我慢や辛抱も、誰かのためになら幾らでも背負えるようなところがあって。
けど、要領良さそうに見せておいて、実は矜持の高いお人でもある訳だから、
その内、ばっきり折れないかが、心配っちゃ心配ですよねぇ。

 “もうちょっとほど自惚れて、それでバランスを取ればよろしいのに。”

自惚れる暇が無いほど、そんなにもカンベエ殿をお慕いしてらっしゃるのか。
そして、そんなだからキュウゾウ殿がやきもきするっていうのへ、
カンベエ殿でさえ気づいているようだのに、
直接には気づいていない、そこがまた…何とも罪なお人だったりし。

 “まま、傍観者にはなかなか奥が深い場所となりつつあるようですが…♪”

囲炉裏の四角に重なるわ、何とも楽しいトライアングル。
私がキュウゾウ殿をおっかなくはないと思うよになったのだって、
元はといえばシチさんの構い立てを見てからですしね。
戦さを前にした無駄な緊張感を容易くたまなしにしてしまう、
効果抜群な一服の清涼剤として、
このくらいの余裕はむしろ必要なのかも知れずで。
さぁて、明日は一体何が起きるものやらvv
………あ、でも。
またぞろ、私を休ませようっていう下手な魂胆だったら、
そんなものは願い下げですからね?






  〜Fine〜 07.2.13.


  *将棋話が拍手お礼から弾かれたので、
   ならばと突貫でひねってみました、リベンジ作です。
   長男坊ヘイさんから見た囲炉裏端の皆様です。
(苦笑)
   さすが 13番目だからでしょか、
   なかなかUPに漕ぎ着けられなくて、因縁のある番目となりました。


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